「ゲームメカニクス」予約開始

 「ゲームメカニクス」が予約開始になりました。

ゲームメカニクス  おもしろくするためのゲームデザイン (ゲームデベロッパー)

ゲームメカニクス おもしろくするためのゲームデザイン (ゲームデベロッパー)

 海外におけるゲーム研究やゲームデザイン研究は、多くの議論、論文、書籍を経てある程度体系化されつつあります。それは、数多くの名作の解析や、新しく作るゲームのデザインの足がかりに用いられています。しかし、ゲームには「作って動かしてみないと分からない」ところも多く、本書でも「紙と鉛筆によるペーパープロトタイピング」「Unityなどを用いたソフトウェアプロトタイプ」など、今日有効とされるプロトタイプ手法を紹介しています。一方で、どんな速度で開発を行ってもソフトウェアのプロトタイピングのコストは決して小さいものではありません。
 著者の一人である ヨリス・ドーマン氏は、ソフトウェアプロトタイピングにコストを割き始める前の段階で、ゲームメカニクスをモデル化し、視覚化して検証するために、「マキネーション」と名付けた新しい視覚化手法を提唱しています。さらに、それを実際に動的に動作させるツールも開発しました。
 デジタルツールを用いることで、ソフトウェアプロトタイプが出来あがらないとゲームデザイナーが検証しにくかった駆け引きや数値調整に関わる要素を、「動くダイアグラム」を用いて高速に検証することができるようになっています。その要素の変更やゲーム構成の組み替えも容易で、AIプレイで瞬時に10,000回プレイさせて統計データを取り、ゲームデザインの偏りや、仕様変更の影響効果を測定することも可能です。
 本書は、前半部で海外で蓄積したゲーム研究の議論を簡単に振り返り、後半に向かってマキネーションを活用し、前半部の知識を土台にしてゲームをデザインしたり、既存のゲームを実際に解析することを行っています。
 また著者達は、マキネーションで要素間の影響を可視化できることを利用し、ゲームメカニクスの「デザインパターン」集を作りました。ゲーム開発の現場で「この要素をあれでこれしよう」と各人が好きな言葉で話していた仕組みに、定義と名前をつけてくれました。

 端的に言えば、「既存のゲームメカニクスをモデル化したり、ゲーム開発前に自分のデザインするゲームをモデル化することで、良質な知識を身につけたり、チームレベルの開発人員を巻き込まないと検証できないことを事前に検証し試行錯誤することが可能だ。しかしこれまで、自習方法を含めよい手法がなかった。本書の著者が開発した専用ツールを用いれば、それが可能になる。使い方だけでなく、これまでのゲーム研究の知見もまとめられている」となります。

 個人的には、日本のプロの企画は本書に書いてあることは体験的に熟知していると信じたい。ただ、体系化済の知識を知ること、それを構文化し、動かせるようにしたツールの存在は新しい発見だと思うし、それがその暗黙知を整理して共通言語化してくれると思います。また、学生の企画さんはもし学校でWordやExcelの使い方を習って、仕様書を書いてどうプログラマやアーティストに仕事を振るのかという勉強をさせられてるのだとしたら、ぜひこの手の本を(ルール・オブ・プレイなどと一緒に)手にとって欲しいです。

 まだオンラインドキュメントの翻訳ができていませんが(少し遅れるかもしれません)、本のほうは最終段階に入っています。

 マキネーションは素晴らしい提案だと思います。本書の日本語版によりプログラマがゲームデザイナーの首をねじり上げながら「今言うな!」「先に言っとけ!」と叫ぶ情景が少しでも減ることを願います。