外付けGPUボックス BIZONレビュー --- 小さな筐体に収まりきらないGTXのスーパーパワー

今年もWWDCが終わったが,ポータブル界隈での一番のビッグニュースは外付けGPUボックスの登場だと言えるだろう。Apple関連の製品群で外付けGPUボックスなどというキワモノが出てくるとは想像できなかった。外付けGPUボックスも,普通に買って普通に挿すだけでスムーズに繋がる時代が来たのかもしれない。

外付けGPUボックスといえば,このブログでは以前,Alienware ブランドの専用外付けGPUボックスAlienware Graphics Amplifierについて取り上げたことがある。

minahito.hatenablog.com

対応するAlienware本体より先にAmplifierとGPUが届いたため,することがなくてGPUを挿したり抜いたりして遊んでいたのが昨日のことのようだ(記事参照)。

その後もMac用の外付けGPUボックス「BIZON BOX 2」とGeForce GTX 980との組み合わせにも手を出したりした。前者はBIZON BOX 3が現行機,後者もGTX10シリーズの時代に入っており,今更感はあるのだが,半公式のeGPUボックスの発売を記念して,記憶と記録を辿りながら簡単にレビューしたい。

Thunderbolt 2に対応したGPUボックス

BIZON BOX 2は,AKiTiOのPCIe-Thunderbolt変換キットの基盤を内蔵し、GPUに特化した扱いが容易になるように設計された鉄製の箱とソフトウェア郡のセットだ。つまり,Thunderboltケーブルを使って外付けGPU(eGPU)をMac環境に提供してくれる製品である。しかしこれがどうしてなかなか、見かけはシンプルな鉄箱ながら、デスクトップのGPUパワーがこの小さな箱に収まりきらないさまを見せてくれる。

BIZON BOXの環境では,Mac OS XとBootcampのWindowsの両方でeGPUを認識することができる。BIZON BOXに繋げたモニタ上の描画をeGPUで実行するのが基本の形だが,対応している機種で適切な設定を行えば,内蔵モニタに「描き戻し」を行うことが可能だ。

ウェブサイトからクレジットカード決済で購入することができ,希望するならば同時にビデオカードを買うこともできる。輸出に対応しており,少なくとも日本からは問題なく購入可能だ。発送も迅速で,特急便のオプションを選択すれば1週間ほどで商品を手にすることができた。標準で1年間のアフターサービスがついており,故障や問い合わせへの対応を行ってくれる。

残念な点としては,マニュアルやソフトウェアがオンラインで公開されていない(ソフトウェアはダウンロード方式だが,URLが公開されていない)ことが挙げられる。言葉を選ばなければBIZON BOXはAKiTiOの基盤を流用して価格を上乗せした「情弱」向けの製品でもあるから,eGPUのスムーズな導入を解説するマニュアルやソフトウェアもキモであり,オフラインとするのは仕方のないところかもしれない。

筐体からあふれ出んばかりの GPU は「まさにデスクトップ級」

それでは,早速GTX980をBIZON BOX 2に装着してみよう。

入らない。GTX980が箱より長くて,物理的に収まりきらない。

筐体からあふれんばかりというか,実際にあふれているではないか。

箱の構造上,内箱にGPUボードがおさまらない場合,GPUの端子を基盤に装着することができない。つまり,このままでは$660の鉄の箱を送料・TAX込みで2万円で輸入しただけ,ということになる。

こんな馬鹿なことがあるかと思ってもう一度ウェブページを確認すると,ロングサイズのGPUはフロントパネルが邪魔になるため,出荷時に取り外しを希望することができる,という記述が見つかった。そして,実際購入ページには下記のような選択肢があったのだ。致命的な見落としである。

迅速で的確なアフターサービスも英語に苦労

しかし,BIZON BOX 2 のもうひとつのウリである「一年間のアフターサービス」を試すよい機会だ。たどたどしい英文で、注文を間違えたことと、何らかのアフターケアをしてくれないかということをメールで送ってみた。すると、非常に懇切丁寧なメールが添付写真つきで迅速に戻ってきた。メールを送っても返事が返ってこない日本の会社が多々あるなか、これはなかなかの高得点だ。メールの中身は、要約&翻訳すると次のようなものだった。

添付した写真を参考に、ノミか何かを溶接部分に当てて、ハンマーでぶっ叩いてお切り離しください。 そのあと、ペンチを使って、パワーで蓋を外側に折り曲げてください。 どうしても気になるようなら、その後切断機で切り落としてもよいでしょう。 それであなたのGPUが装着できるようになるはずです。

え?蓋を破壊しろって書いてありますひょっとして?最初読み終わったときは,こちらの英語力の問題による解釈間違いかあるいはアメリカンジョークか何かなのかと思ったが,添付写真には「ここを壊せ!」といわんばかりに破壊目標に的確に赤丸がつけられており,サポートの本気度が伺えた。それにしてもこの鉄箱,鉄板の厚みが相当あるし溶接も相当丁寧に行われているのだが,アメリカではハンマーやペンチでどうにかしてしまうものなのだろうか。

「規格外のパワー」は想像以上! 初起動の衝撃

結局,鉄箱から基板を取り外し,それをGTX980に直接装着することで,物理的な制約をクリアすることにした。

GPUにモニタを接続して,BootCamp側のWindowsを起動すると,GPUのファンが勢いよく回り始め,ついにGTX980がモニタに初描画を行ってくれた。そのときの写真が残っているので,こちらに掲載したい。

PLEASE POWER DOWN AND CONNECT THE PCIe POWER CABLE(S) FOR THIS GRAPHICS CARD

電力不足である。

実はBIZON BOX購入時に200Wかそれ以上の電源か*1選択できるようになっていたのだが,980なら200Wで十分と書かれてあったため,より小さくて静粛性の高い200Wを選択したのだ。しかし,結局電力が足らなかったということだ。そんな馬鹿な,200Wあって足りないはずがないと思って,電源アダプタ(DELLの電源の流用品だが)の表記をよく読んでみたところ,15A12Vという表記が目を引いた……つまり180Wということになる。20Wどこいったんだよ。

この180Wという数値は私のGTX980にはスレスレの値であり,起動できることもあったが,かなり不安定な状態であった。

この界隈では,高性能パーツを表現する際に「規格外のパワー」「限界を超えたパワー」などの比喩表現が好んで用いられるが,電力の限界を超えると起動しないということを痛感させられることになった。

BIZON BOXとAlienware Graphics Amplifierを並べて考える

さてここで,BIZON BOX 2と,同コンセプトの先達Alienware Graphics Amplifierを並べてみることにしよう。AmplifierはBizon Box 2より,巨大な電源ユニットを持っており,このGTX980を実際に動かした実績がある。GTX980にBIZON BOX 2の基板を装着した状態で,Amplifierから電源だけもらえば,電力不足を解決できるのではないだろうか?

もちろん,単にPCIeパワーケーブルを取り回すだけでは,Amplifier側のスイッチが入らない。そこで,スイッチボードとして「ATX電源検証ボード」を購入して繋げ,手動で電源を起動できるようにした。完成した接続手順は,下記のようなものだ。

  1. BIZON BOX 2から取り外した基板を,GTX980に直接装着する。
  2. Mac Book Airと当該の基板を,Thunderboltケーブルで接続する。
  3. Alienware Graphics Amplifierの蓋を開き,PCIeパワーケーブルだけ貰って,GTX980に接続する。
  4. Mac Book Air,Bizon BOX 2の基板,Amplifierの3台をそれぞれ電源に接続する。
  5. スイッチボードを使用して,Amplifierに灯を入れ,GTX980に電源を供給する
  6. Mac Book Airを起動する

相当乱雑な状態になってしまっているが,箇所箇所の要件は満たしており,無事に起動させることができた。当時の Fire Strike の記録が残っているのでスコアを転載すると,

  • Graphics scpre 9,251
  • Physics score 1,721
  • Combinated score 1,099

で,トータル3,857であった。CPU側がi7 3567Uとかなので,グラフィック以外のスコアがボロボロなのは仕方がない。しかし,GTX980のほうはきちんと動作していることが伺える。

黎明期の機器ではあるが,ポータビリティは良好

いろいろ騒動はあったが,eGPUの黎明期らしいサードパーティ製品ということができる。公式にMacをサポートする製品が登場するということで,若干彼らの先行きが心配でもある。

一点だけ,BIZON BOXの強みについてあげておきたい。COMPUTEXの記事によると,世の中的にはAlienware Graphics AmplifierやRazer Coreは「非ポータブル製品」ということになっているらしい。そこで,GPUをあえて交換不可能にしてeGPUボックスをサイズダウンした,ポータブルなeGPUボックスが開発されていたりする。

www.4gamer.net

しかし,ここまで読んでいただければお分かりのとおり,BIZON BOXの基板は簡単に鉄箱から取り外しが可能で,大きさや重さはまったく問題にならない。据え置き,ポータブル,両方に対応できるマルチロールeGPUボックスなのだ。興味のある方にはぜひポータブル機材リストの末席に加えていただきたい。

*1:現在は400W